聞き手:
シェ-ナークライスフィルハーモニー管弦楽団 楽員(指揮者)
シェ-ナークライスフィルハーモニー管弦楽団 理事
益田 雄真
益田:今回、モーツァルトを弾くということで、金生さんのなかでのモーツァルトの位置付けを教えてください。
金生:モーツァルトの曲は、聴くことは大好きなのですが演奏するのは実は苦手意識が
かなりあります。彼は古典派の代表的な作曲家ですから今までに弾いたことはもちろん
ありますが、「こいつイマイチ掴めないな…」というのが素直な感想です(笑)。
益田:なるほど、同感です。私もモーツァルトは大好きですが、人前で弾きたくない
作曲家のひとりですね。今回演奏する23番は、とくにモーツァルトの中でも哲学的で、
難しいと思うのですがいかがでしょうか。
金生:モーツァルトというと、明るくてどこか子供っぽさも感じられるような曲が多いと個人的には思います。ですが、この曲は長調の中でも
比較的穏やかで、特に1楽章はすーっと心に入り込んでくるようなイメージです。全体的に少し大人びていて、特になにもテーマもなく、
「ただの日常」をのびやかにうたった曲だと私は考えています。
益田:ただの日常。なるほど、普段の生活の中に喜怒哀楽があるのと同じように、この曲にも起伏があるということですね。
金生:はい、そのように考えています。
益田:しかしそれはなかなか難しい。日常ってかなり抽象的だから。
金生:そうですね、日常という言葉で何を連想するかは人によって違うのは中々厄介なところだなと思います。
ただ誰にとっても同じだ、と私が考えているのは、いつのまにか始まっていることじゃないでしょうか。
益田:たしかに第1楽章の冒頭は、気づいたら始まっているような音色で、とオーケストラに指示を出しましたね。
ところで、金生さんがこの曲でいちばん好きな部分はどこですか?
金生:どこをとっても素敵な曲なので迷いますが、一番好きなのは第1楽章の第2テーマですね。
益田:美しいところですね。初めてこの曲を聴いたときには、たしかにツァハリアスの録音だったと思いますが、この部分を何度も繰り返して
聴きました。ピアノで再現するところ、緊張しませんか(笑)。
金生:超緊張してます(笑)。ソロであるというのももちろんですが、あそこが決まらなければその後に続くオーケストラも立て直しが中々
きかないと思うので。
益田:ソリストに重大な責任がある分、指揮者の責任が半分になるんですよ(笑)。
演奏会でソロの曲を弾くのとどちらが緊張しますか?
金生:圧倒的にコンチェルトですね。ソロはどこをどう間違えても自分だけにそのミスが降りかかりますが、コンチェルトはそうじゃないので。
益田:でも楽しいですよね。ピアノって普段他の楽器と交わり合う機会が少ない楽器ですが、協奏曲のときにソロでは出せないピアノの魅力が
出る。
金生:そうですね、ピアノは一台でオーケストラができる楽器でもありますが、やはり本物のオーケストラは格別ですね。
益田:やはりソロの曲を弾くときもオケの響きを考えながら弾きますか?
金生:曲にもよりますね。ですがどの曲も、全体を見渡して弾くようにはしています。
益田:前に弾いていたバッハのイタリアンコンチェルト、とてもよかったですよ(笑)
金生:やめて!あれは黒歴史なんです(笑)
益田:聴衆の皆さんにも、ピアノに期待していただくことにしましょう。本当に素敵なピアノでしたよ。
今回のモーツァルトも素晴らしいです。
さて、それでは時間なので今回はこの辺で。ありがとうございました。
金生:はい、ありがとうございました。
2019年9月7日 彩の国さいたま芸術劇場にて
撮影:
シェ-ナークライスフィルハーモニー管弦楽団 楽員(Tp.首席)
鍋島 藍